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横恋慕した女性に「会わなければ殺す」と留守番電話にメッセージを入れ脅迫罪で逮捕、日頃からトラブルが絶えなかった近隣住民を日本刀で斬りつけて殺害......。どちらも高齢者が起こした事件である。
病院や介護施設などでも、激高し、その怒りをそのまま行動に移す高齢者がいる。ひと昔前なら、眉をひそめられ驚かれた高齢者の起こす騒動や犯罪は、いっこうに減る気配はない。
[an error occurred while processing this directive]警察庁の「平成25年の犯罪情勢」によると、ここ数年高齢者による犯罪の検挙人員は増加傾向だったものの、平成24年、25年と前年に比べ減少しているそうだ。
しかし、減ったのは窃盗犯、知能犯(詐欺や横領、偽造など)、風俗犯(賭博、わいせつ)などで、逆に暴行・傷害・脅迫・恐喝などの粗暴犯は3.4%増、殺人・強盗・放火などの凶悪犯は0.6%とわずかながら増えている。表沙汰になりにくいDVのほうが深刻な問題を抱えているのかもしれず、それを含めるともっと大きな数字になるに違いない。
それもそのはず。医療が発達したことで、元気な高齢者が増えているからだ。内閣府の調査では、日本の総人口1億2,753万人中、65歳以上の高齢者は3,000万人を超え、高齢者が占める割合は24.1%にのぼった(2012年10月現在)。いまの日本は、全人口の4人に1人が高齢者。アチラを見てもコチラを見ても高齢者なのだから、優しい人も乱暴な人もいるだろう。
しかし、そうではなく、これまで穏やかだったのに人が変わったように粗暴になることがあるのだという。
●「人が変わった」のは認知症のせい?
穏やかだった高齢者が、急に暴力的になる......。こんな場合は、まず病気を疑ってみよう。
認知症の種類のひとつ、前頭側頭型認知症(ピック病)は、大脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することによって発症するという。アルツハイマー病のような記憶障害、見当識障害などは見られず、これまで紳士的だった人が突然キレて暴力を振るったり、一方的に話を押し付けたり、いきなり怒鳴りつけたり......などが特徴。以前はあり得なかった万引きや食い逃げなどの軽犯罪を犯しても、反省の色はない。
また、レビー小体型認知症は幻覚を見ることがあるが、それを訴えても信じてもらえず暴力に走るケースもある。アルツハイマー型認知症の症状のひとつもの盗られ妄想では、財布がなくなった、通帳を盗まれたなどと思い込み、そういった不信感が暴力につながることもある。
レビー体型認知症の場合は、向精神薬で精神症状をコントロールすることが可能だ。前頭側頭型認知症、アルツハイマー型認知症は決定的な治療法はないが、対応の仕方により気持が穏やかになる場合もある。
●ほかにもある、高齢者の暴力の原因
しかし、高齢者の暴力沙汰は、認知症だけが原因ではない。高齢者が周囲から孤立していることが問題だと指摘する識者もいる。
大家族での暮らしは過去のこととなり、今や要介護の身でも独り暮らしを余儀なくされる高齢者も多い。妻に先立たれ、息子や娘とはめったに会うことはない。地域活動に溶け込めない。仕事を離れ、誰からも必要とされなくなった......などなど。誰からも振り向かれない疎外感が、胸に湧いた怒りの炎に油を注ぎ、エスカレートしていくことになる。
たとえ大家族で暮らしていても、食事は一人、テレビも一人、孫に話しかけても無視される、なんていう場合も。これは一人暮らしよりも疎外感が大きいかもしれない。
その孤独感、寂しさはわからないでもないが、それを理由に暴力を振るわれてはたまったものではない。八つ当たりとしか言えないのではないだろうか。とりあえず、電車で席を譲ろうとしている若者に「失礼だ!」などと逆ギレするのはやめてほしい。
(文=編集部)