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【特集「近視の最新情報~いま子どもの眼がアブナイ」第3回】

太陽光に含まれる「バイオレットライト」近視の進行を抑える可能性

太陽光の「バイオレットライト」を浴びると近視が抑制(depositphotos.com)

 屋外活動が近視の進行を抑えることは、世界各国の研究で確認されている。そのメカニズムの1つの仮説を提唱したのが慶應義塾大学医学部眼科学教室であり、最初に発見したのが鳥居秀成医師(慶應義塾大学医学部眼科学教室)だ。

 太陽光に含まれている「バイオレットライト」を浴びることで、近視の進行が抑制されるという鳥居医師ら慶應義塾大学医学部眼科学教室の発表が注目されている。

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 「太陽光には紫外線やブルーライトも含まれているから、避けたほうがいいのではないか」と疑問を持つ人もいるだろう。目の健康のために太陽光をどのように取り入れればよいか、研究の第一線に立つ鳥居医師に解説してもらった。

「バイオレットライト」不足で近視が進行する可能性

 太陽光には、目に見える「可視光線」のほかに「赤外線」「紫外線」などが含まれている。「バイオレットライト」とは、その名のとおり分光すると「紫色」に見える光。可視光線の中で360~400nmの波長を持つ。紫外線はバイオレットライトよりも波長が短い光だ。
 
 鳥居医師がバイオレットライトに着目したのは2010年頃、2種類の有水晶体眼内レンズ挿入術後の眼軸長の伸長量に差があることに気づいたことに始まる。

 坪田一男教授・根岸一乃教授・栗原俊英特任准教授らの指導の下、現在までに主に「①ヒヨコを用いた動物実験」「②コンタクトレンズ使用者の臨床研究」「③屋内・屋外でのバイオレットライトの測定」の3つの研究を行った。
 
 ①の動物実験では、ヒヨコをバイオレットライトを浴びるグループと浴びないグループに分けた。それぞれのグループ内で、ヒヨコの片目に1週間凹レンズをつけ近視を誘導し、レンズをつけて近視を誘導した目、レンズをつけない目、この2グループの近視進行程度を比較した。
 
 その結果、レンズ装用をした目・しない目の両方において、バイオレットライトを浴びた群の方が浴びない群よりも有意に近視進行が抑制され、眼軸長伸長量も有意に少なかったのである。

 「眼軸長」とは角膜から網膜までの、眼球の前後方向の長さだ。この眼軸長が伸びると、網膜より手前で焦点が結ばれて、網膜にはピンボケのような像が映る。これが近視の状態だ。
 
 ヒヨコの目の組織を調べたところ、バイオレットライトを浴びた目では、近視進行を抑制する遺伝子「EGR1(Early growth response 1)」の発現量が上昇していた。

 「以上のことから、バイオレットライトを浴びることで近視進行を抑制する遺伝子が活性化し、近視が進行しにくくなる可能性が考えられます」と鳥居医師は語る。
 
 ②の臨床研究では、バイオレットライトを通すコンタクトレンズと、あまり通さないコンタクトレンズの使用者の眼軸長を比較した。前者については1年当たり0.14mm伸びていたのに対し、後者は0.19mmも伸びていた。人間でも、バイオレットライトを浴びることで眼軸長の伸長が抑制されていた可能性が示唆された。
 
 ③の測定で、オフィスや車、病院の中にはほとんどバイオレットライトがないことが判明。近年の眼鏡や窓に使われているガラスの多くが、バイオレットライトを通さないことが判明した。こうした環境の変化も、近視が急増している原因の一つといえそうだ。

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