スポーツ心臓はマラソンや水泳などの持久力や耐久力を求められるスポーツ選手に多い(shutterstock.com)
第31回オリンピック競技大会(リオ五輪)が開幕し。(8月21日までの17日間)。競技種目は28競技306種目。鍛え抜いれたフィジカルと剛健なメンタルを持ったトップアスリートたちの新記録への熱いチャレンジ、闘志あふれるメダル争奪戦が楽しみだ。
リオ五輪は、会場整備の遅れ、ジカ熱の感染、政情不安、ドーピングの摘発、国際テロの恐れなど、さまざまなリスクを抱えるが、トップアスリートたちの競技中の事故や障害、コンディションやヘルスケアも気がかりだ。そこで今回は、「スポーツ心臓(athlete's heart)」にスポットを当てよう。
[an error occurred while processing this directive]疾患がないのに心臓が肥大化
『メルクマニュアル18版 日本語版』によれば、スポーツ心臓とは、ほぼ毎日1時間以上トレーニングするトップアスリートの心臓に生じる、徐脈、収縮期雑音、過剰心音などの構造的・機能的変化の徴候のことを指す。主としてマラソン、自転車、水泳、ボート、クロスカントリースキー、重量上げ、柔道などの持久力や耐久力を求められるスポーツ選手に、球状の心臓肥大や安静時における心拍数の低下が見られる。
1899年、スウェーデンの医師ヘンシェンは、心臓に疾患がないにもかかわらず、心臓が肥大化していたクロスカントリースキー選手を診断したことから、この特異な症状を「スポーツ心臓」と名づけた。実に当を得た絶妙のネーミングだ。
なぜスポーツ心臓になるのか? 長期にわたって激しい持久力や耐久力を養うトレーニングを続けると、運動による過負荷によって左心室の容量負荷・圧負荷が高まるため、左心室の筋肉量・壁圧・心腔サイズが増大する。それと同時に、最大1回拍出量や心拍出量が急増するので、自律神経である迷走神経の緊張によって副交感神経が優位になる。その結果、安静時の心拍数の低下や拡張期充満時間の延長につながる。これがスポーツ心臓のメカニズムだ。
スポーツを中止すれば平常のサイズに戻る
トップアスリートがスポーツ心臓になる確率は、女性が22.5%、男性が7.5%と女性のほうが高い。また、1分間の最大1回拍出量は、成人なら60~70回だが、スポーツ選手なら40~50回、マラソン選手なら30回になる。適正に鍛えれば鍛えるほど、心臓はますます頑強になるタフな臓器なのだ。
スポーツ心臓によく見られる徐脈(脈が飛ぶ不整脈)は、洞性徐脈や徐脈性不整脈とも呼ばれる。安静時の心拍数が60回未満になり除脈が発生すると、心筋の酸素需要量が減少し、総ヘモグロビン量と血液量が増大するので、酸素輸送量が急増する。文字通り「強い心臓」! それがスポーツ心臓だ。
さらに、スポーツ心臓の著しい特徴は、収縮期雑音と過剰心音がある点である。心臓音は「ドックン」と聞こえるが、心臓が収縮する時に「ドッ」と「クン」の間に聞こえる小雑音が収縮期雑音だ。過剰心音には、拡張早期に心房から血液が心室壁を振動させて発生するⅢ音(さんおん)、心房が収縮して血液が流入する時に発生するⅣ音(よんおん)がある。
このような徐脈、収縮期雑音、過剰心音を伴うスポーツ心臓は、強度の運動に耐えるための適応症状、ホメオスタシス(生体恒常性)の現れだ。したがって、スポーツを中止すれば、心臓は平常のサイズに戻るため、通常は治療の必要はない。