大人の5人に1人は催眠術に全くかからない(shutterstock.com)
催眠状態に陥っているヒトの脳内は、いったいどうなっているのか? 何らかの変化が脳内で起きているのだろうか?
その興味深い実相が、米スタンフォード大学医学部のDavid Spiegel氏らによるMRI検査の研究報告で明らかにされた。
[an error occurred while processing this directive]催眠(hypnosis=ヒプノシス)は、暗示に左右されやすい変性意識状態の一種。ギリシア語で「眠る」を意味するが、明治期の日本上陸当時は「眠りに催す」状態と誤認されてしまい、訂正が効かぬまま催眠術(hypnotism)の呼び名が定着してしまった。
実際、うたた寝と似て非なるものらしいが、意識構成の一つである「広がり」が低下した狭窄状態を「催眠状態」と呼んでいる。
では、この催眠をめぐるSpiegel氏らの脳内研究は、どんな分析結果を読み取ったのだろうか?
研究に際しては545人の潜在的な参加者から、最終的に57人の被験者が選定された。そのうち36人に関しては非常に催眠にかかりやすい傾向にあり、対照的に残りの21人は催眠にかかりにくい人たちだった。
「自分」が消えて「他人」のいいなりか?
実験では、「各自の安静時」、「記憶を想い起こしている時」、「催眠状態を惹起するためのメッセージに曝された時」、それぞれのシチュエーションでMRI検査が行なわれた。その際の血流の変化が検出され、被験者ごとの脳活動が測定された。
結果、催眠にかかりやすい被験者の層では、催眠時に3つの明瞭な脳内変化が認められた。この著しい変化は催眠状態でない場合は認められず、そもそも催眠にかかりにくい層の脳内では見られない現象だった。
論文に従えば、前者の層では、催眠時に次のような変化が脳内で起きていた。
変化①:脳を司る主要ネットワーク(Salience network)の一部である「背側前帯状皮質(Anterior cingulate cortex)」の活動が低下していた――この領域は物事を比較する機能を有し、心配するに値するかどうかを判断する際に働くといわれている。
変化②:脳の最も進化した部位であり、集中力の源泉(=計画の立案やタスクの遂行を司る)である「背外側前頭前野(Dorsolateral prefrontal cortex)」と身体状況の把握を司る「島皮質(insula)」のつながりが増大していた――催眠状態下では、その人の心拍数や血圧を変えることも可能とのことだ。
変化③:一方、同じ「背外側前頭前野」と創造性に富む「初期モードネットワーク(Default Mode Network)」のつながりは減少傾向が認められた――このDMNはぼんやりしたり、自分のことを考える際に活性化する領域。ひるがえって催眠にかかりやすい人の場合、催眠術者の思うまま、指示された行動を無意識に行う。