食習慣が欧米化するとともに、大腸がんの発生率 shutterstock.com
これまで腸の老化と腸年齢について話した。今回は、大腸がんの発症リスクと食生活について話そう。
がんは、どのようなメカニズムで発生するのだろうか?
[an error occurred while processing this directive]ヒトの体は、約60兆個の細胞で構成され、細胞核の中に約20億個の遺伝子がある。がんは、細胞核の遺伝子変異によって発生する。この遺伝子変異によって、発がんを促す遺伝子(がん遺伝子)が現れたり、発がんを抑える遺伝子(がん抑制遺伝子)が働かなくなったりする。
遺伝子変異を起こす発がん物質をイニシエーター、がん細胞を増殖させ発がん促進物質をプロモーターと呼ぶ。例えば、イニシエーターは、放射線、紫外線、ウィルス、肉の焼け焦げなど、プロモーターは、女性ホルモン、胆汁酸、塩分、タバコ、人工甘味料、農薬、環境ホルモン、PCBなどだ。
次に、大腸がん発生のメカニズムを簡単に説明しよう。まず、がん抑制遺伝子のAPC遺伝子が変異すると、大腸の表面にある上皮細胞粘膜に腺腫(良性腫瘍)が形成される。次に、がんの増殖を抑えるK-ras遺伝子が突然変異を起こすと腺腫が大きくなり、異型度(細胞の悪性度)が増す。その時、がん抑制遺伝子のp53遺伝子とDDC遺伝子の変異が加わり、大腸がんへ進む。
大腸がんは、上皮細胞の粘膜にできたポリープの一部ががん化したものが多い。遺伝的要因が明らかながんには、家族性大腸ポリポーシスと遺伝性非ポリポーシス大腸がんがある。
大腸がんの発症リスクを強める悪玉菌クロストリジウムの正体
肉類などの動物性脂肪を大量に摂り過ぎると、大腸はどのように変化しているのだろうか?
まず、肉類を食べると、動物性脂肪を分解するために肝臓から胆汁が過剰に分泌される。胆汁に含まれる胆汁酸(一次胆汁酸)の一部が大腸に吸収され、悪玉菌のクロストリジウムが発がん促進物質の二次胆汁酸を多量に生成する。
クロストリジウムは腸内に1000億個も存在し、発がん物質のほか、アンモニア、フェノール、トリプトファン、インドール、硫化水素などの悪臭を放つ有害物質をつくる。悪玉菌として名高いウエルシュ菌は、クロストリジウムの一種。だが、腸内に乳酸菌などの善玉菌が増えると減少する。クロストリジウムがつくる発がん促進物質の二次胆汁酸は、大腸がんのリスクを強めることにつながるのだ。
動物実験では、二次胆汁酸と発がん物質によって大腸がんが発生することが確かめられている。肉類中心の食生活は悪玉菌を増やすので、腸内で腐敗が起きやすく、発がん物質が作られやすくなり、大腸がんの発症リスクが高まる。
ちなみに、アメリカに移住した日系人のがん罹患率の調査を紹介しよう。この調査では、日系1世は胃がんが多いが、大腸がんの発生率は低い。日系1世は、伝統的な日本食を守り、肉類を控えるからだ。一方、日系2世・3世は、食習慣が欧米化するとともに、大腸がんの発生率はアメリカの白人と同レベルに高止まりしている。がんの発症が食生活の変化の影響を受けた好例だろう。
前回の「腸年齢チェックテスト」で紹介した酪農学園大学の辨野義己(べんのよしみ)特任教授は、40日間、肉だけを食べ続けると腸内環境はどう変わるのかを知るために、自ら肉食だけの人体実験をした。
「35歳の時でした。40日間、米、野菜、果物など他の食べ物は一切食べずに、毎日1.5㎏の肉だけを朝・昼・夜の3食、食べ続けました。最初は、全身にパワーがみなぎりましたが、やがて体臭がきつくなり、皮膚も脂ぎり、疲れやすくなりました」
だが、最も劇的に変わったのは、便だった。実験前は黄色だったが黒ずみ始め、実験の終了前はタール状に一変した。排便量も少なくなり、悪臭も一段ときつくなった。
「腸内で悪玉菌が優勢になったために、便の色や臭いだけでなく、便自体も実験前の弱酸性から弱アルカリ性に変わりました。腸内細菌を調べると、実験前は20%だったビフィズス菌などの善玉菌が、実験後は15%に減り、10%だったクロストリジウムなどの悪玉菌が18%に増えていました」と話す。
大腸内で多数派の日和見菌は、強い勢力になびくので、悪玉菌が増えると悪玉菌に加担してしまう。その結果、腸内の腐敗がますます進み、便の色も形状も激変し、悪臭の発生につながったのだ。
次回は、大腸がんに罹らない食生活について話そう。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。