医薬品に関する「禁忌」という言葉は、医薬品の添付文書に記載されている用語だ。添付文書とは、簡単にいえば医薬品に関する医療従事者向けの取扱説明書のようなもので、そのほぼ冒頭部分に記載されているのが「禁忌」という項目だ。
医薬品の場合、時として死に至る、あるいは発症したらかなり重症で以前の身体状態には戻らなくなる可能性がある副作用が出る場合があり、そうした薬剤では添付文書の冒頭に赤枠で「警告」という欄が設けられ、文字も赤字記載される。医師や薬剤師が読み落しなどをしないようにするための工夫だ。「警告」欄がない場合は「禁忌」が冒頭になる。「禁忌」欄は黒字表記だが赤枠囲みでやはり目立つような工夫がしてある。
[an error occurred while processing this directive] 東京女子医大で小児に「禁忌」となっている麻酔薬「プロポフォール」を使用し、死亡例が出ていた事件や降圧薬のARBやACE阻害薬を「禁忌」である妊婦に使用して投与して胎児に影響が出た事件などが記憶に新しい。
この「禁忌」には、「禁忌」と「原則禁忌」という2種類がある。「禁忌」は症状、現在罹っている病気、合併症、過去にかかった病気、家族歴、体質、併用している薬剤などから判断して、その薬剤を投与すると重大な問題が生じる可能性があるため、投与してはいけない患者を記載している。
これに対して「原則禁忌」は、本来は「禁忌」にすべき患者だが、治療上の必要性に応じてはやむを得ない患者について記載している。ほかに適切な治療法がなく、どうしても使用しなければならない場合に限り、適切な注意を行いながら投与することが前提で、当然ながら 他に適切な薬剤が使用できる場合には、そちらの使用を検討すべきケースもある。
●薬剤師の積極的な介入が一つの鍵
現場の治療では様々な局面があり、禁忌を厳格に守っていると何も打つ手がなくなるということがある。例えば乳児を含む小児への投薬だ。日本国内で医療用として承認されている医薬品は、化合物の成分数で3000種類超。ところが小児への適応がある薬剤というのは、実のところごくわずかである。
このため、ほとんどの薬では小児では安全性が確立されていないとして投薬をしないよう記載されている。とはいえ、子供・大人にかかわらず罹る病気も少なくないので、現実には小児へ投薬をしないよう添付文書に記載があっても投薬されるケースは結構ある。また、前述のように治療上の必要があれば慎重を期して投与が許される「原則禁忌」に該当する事例も医療現場で稀ではなく、こうした投薬も実際には行われている。
例えば、総合の風邪薬、PL顆粒は「下部尿路閉塞性疾患」の患者や「緑内障」の患者にも禁忌。しかし、仮に前立腺肥大の患者だと、PL顆粒で尿が出にくくなる可能性はあるが、風の症状を緩和するために処方することもあるという、仮に尿が出にくくなったとしても、風邪の症状が治まってPL顆粒を中止すれば、元に戻るからだ。「緑内障」の場合、「閉塞隅角緑内障」とでは危険度がだいぶ違う。「開放隅角緑内障」であれば、それホド大きな影響はないとされるが、添付文書上は、まとめて「緑内障」で「禁忌」とされている。
実際にそういう軽い禁忌があるため、医療側での曖昧さが日常化しているのも事実。禁忌の手前の「注意」ともなるとさらに注意が払われなくなっていく。さらには、医師がどの薬でどのような患者が禁忌となっているかを十分に把握していないケースさえある。
事故を防ぐひとつのカギとして、薬剤師の関与がある。薬剤師は医師以上に薬の専門家であるにもかかわらず、これまでは医師を頂点とする医療業界のヒエラルキーの中で医師にはモノが言いにくい立場だった。処方せん中に疑義がある場合には,薬剤師はその処方せんを発行した医師に対して、直接疑義確認をとらなければならず、そのことは薬剤師法24条によって義務づけられている。
しかし、こうした薬剤師の重要業務が一部の心ない医師の閉鎖性によって阻害されるといったことも実際の医療現場では起きている。医療機関ではまず他職種による複数のチェックをしっかりと実践して欲しい。
(文=編集部)