入院費にのしかかる差額ベッド料
アベノミクスの経済浮揚政策の効果が、曖昧なまま選挙に突入することになったが、庶民の懐はすきま風にさらされっぱなしだ。多くの人が、できるだけ不必要な出費は抑えたいと願っている。だが、そんな時こそ不測の事態が起こるもの。特に突然の病気はどうしようもない。最悪は、病院に搬送されて即入院となるかもしれない。
こうした入院時に「今は差額ベッドしか空きがないので、そちらでお願いできますか。ベッド料は保険医療費とは別に1日5000円かかります」などと言われたどうすればいいのか。予期せぬ病気で入院となり、それが1週間ともなれば合計3万5000円。こうした入院費の予期せぬ増額がいわゆる"差額ベッド"だ。
[an error occurred while processing this directive]しかし、この場合の差額ベッド料は、支払わなくていいことを知っているだろうか?
なぜ支払わなくていいかを説明する前に、医療費の仕組みについて知る必要がある。
日本では、全ての国民が一定の保険料を支払い、何らかの公的医療保険に加入することが義務付けられている。また、医師などが行う治療に関する技術料・薬剤費の多くが、公的に価格を定められている。この医療保険のおかげで、医療機関を受診した際には原則3割分だけを自己負担すればよい。
ただし、医療保険の適応外も一部にある。その1つは、厚生労働省が「選定療養」と呼ぶ、患者の希望などによって提供される医療サービスなどにかかる費用だ。差額ベッド料も選定療養とされる。差額ベッドは、正式には「特別療養環境室」と言われる。入院環境の向上と、患者の選択肢を広げるものとして認められた病室だ。
具体的には、(1)病室の病床数は4床以下、(2)病室面積は1人当たり6.4平方メートル以上、(3)病床のプライバシーを確保するための設備がある、(4)少なくとも「個人用の私物の収納設備」「個人用の照明」「小机等及び椅子」の設備がある、の4条件を満たした場合だ。
端的にいえば、1~4人部屋の病室。これらの病室への入院は、原則患者の希望によらなければならない。通常の大部屋よりも快適な環境が得られるのを前提に、その差額を支払わねばならない。これが差額ベッド料だ。
現在、日本国内には差額ベッド料のかかる病床は約25万9000床あるとされる。そのうちの半数を超える約65%が1人部屋、すなわち個室だ。差額ベッド料は、病院が個別に設定してよいことになっている。厚生労働省の「主な選定療養にかかる報告状況」(2012年11月)によると、1人部屋の差額ベッド料は1日あたり平均7539円。1週間入院すれば5万円超ともなる。
●どんな時に支払わなくていいのか?
では、差額ベッド料はどんな時に支払わなくていいのか――。
答えは簡単、患者本人が希望しないのに病院の都合でこうした部屋に入院させられる場合だ。厚生労働省では、次のいずれかに該当する場合は、差額ベッド料を徴収してはならないと定めている。
①同意書による同意の確認を行っていない、②治療上の必要で差額ベッドに入院した、③病棟管理の必要から患者の選択によらずに差額ベッドに入院した。
①はいわずもがな。②は、例えば救急車で緊急搬送されて、その症状から入院して安静な状態で治療を行う必要があると医師が判断した場合は、病院側の事情で差額ベッドしか空きがなくてもその料金は徴収してはいけない。
また③の場合、感染症で入院し、他の患者や医師、看護師への院内感染を防止する目的で個室に入院させられたケースなどが該当する。