副作用を軽くして抗がん剤治療も通院できる時代に
がん治療の最大の目的は、患者の生命を保つこと。場合によっては、がんの進行を遅らせたり、がんによって生じる痛みやつらさなどの症状を和らげたりして、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)」を改善することなどが目的になる。
治療内容は、患者の身体の状態や生活信条、生活習慣によって最善のものが選ばれる。これまでのがん治療は、手術療法、放射線療法、薬物療法を三本柱にして行われてきた。日本では、早期診断の進歩によって、手術や放射線療法の治療成績は向上している。
がんの場合の薬物療法は、抗がん剤、ホルモン剤、免疫賦活剤(免疫力を高める薬剤)などを用いる。症状を和らげるためのいろいろな薬、鎮痛剤、制吐剤なども薬物療法の一つだ。いろいろな治療法が登場しているが、どの治療法にも適応と限界があり、すべてに有効という完全な治療法はまだないのが現実だ。
とはいえ、副作用のつらさが悪名高い薬物療法も、最近では手術前に投与することで治癒率の向上を目指すために用いたり、抗がん剤・分子標的薬だけで5年以上生存するケースも増え、治療成績の進歩を実感できるほどになっている。そして、化学療法には付きものだった副作用に対しても、制吐剤や止痢剤、感染対策などが大きく進歩し、これまでの生活を続けながら治療を受けられるようになってきた。
薬物療法の中でも、化学物質(抗がん剤)を用いてがん細胞の増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療を「化学療法」と呼ぶ。がん細胞だけが持つ特徴を分子レベルでとらえ、それを標的にした薬である「分子標的治療薬(分子標的薬)」を使用することもある。
●副作用を予想して症状を軽くする
手術治療や放射線治療は、がんに対して局所的な治療だが、抗がん剤は投与されると血液中に入り、体内のがん細胞を攻撃するため、全身的な効果がある。薬物療法は抗がん剤などを用いて細胞の増殖を防ぎ、がんが増えるのを抑えたり、成長を遅らせたり、転移や再発を防いだりするためなどに用いられる。このため、転移のあるとき、転移の可能性があるとき、転移を予防するとき、血液・リンパのがんのように広い範囲に治療を行う必要のあるときなどに行う。
がん細胞の増殖にかかわる体内のホルモンを調節して、がん細胞が増えるのを抑える「ホルモン剤」を用いた治療を「ホルモン療法(内分泌療法)」という。がんの薬物療法は、抗がん剤単独で治療することもあれば、抗がん剤のそれぞれの長所を生かして、いくつかを組み合わせたり、手術や放射線治療など併せた「併用療法」を行うこともある。副作用はある程度予想することができるので、対処の方法を知っておけば、症状を軽くすることは可能だ。
●治療法には適応と限界があり完全な治療法はまだない
残念ながら、抗がん剤は万能ではない。完治する可能性があるのは、急性白血病、悪性リンパ腫、精巣がんなどだ。病気の進行を遅らせることができるがんには、小細胞肺がん、乳がん、卵巣がん、骨髄腫、慢性骨髄性白血病、低悪性度リンパ腫などがある。現在、多くのがんで行っている化学療法の主な目的は、転移再発進行がんの患者の延命、手術後の再発予防だ。
こう聞くと、「抗がん剤は毒性が強く、がんには効かない」「がんは放置するのが最も良い」など、がんの"放置療法"を主張する近藤誠医師の考え方に賛同したくなりそうだが、近藤説を鵜呑みにし、本来なら延命可能な段階なのに手術や抗がん剤治療を拒否して亡くなる "犠牲者"も増えている。(文=編集部)