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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第42回】

上半身は「類人猿」、下半身は「ヒト属」!新たに発見された「ホモ・ナレディ」は新種の人類か?

「ホモ・ナレディ」は新種の人類か?(写真はWikipediaより)

 2013年9月10日、衝撃のニュースが世界を駆け巡った――。南アフリカ共和国の首都ヨハネスブルクから北西に約50km。スワルトクランスの南西約800mにある「ライジングスター洞窟」の奥深くから、幼児、成人、老人などの15個体、1550個もの人類化石が発見された。

 人類の化石の発掘地として有名な「クロムドライ」や「スタークフォンテン」もある南アフリカの人類化石遺跡群一帯は、20世紀前半に初期人類の骨が多数出土したため、「人類のゆりかご」と呼ばれ、ユネスコの世界遺産に登録されている。

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 だが、1964年にタンザニアのオルドヴァイ渓谷でホモ・ハビリスが発見されて以来、東アフリカが人類発祥の地と目されている。

現世人類の始祖に近い「ホモ・ナレディ(星の人)」に古人類学界は騒然

 今回の人類化石を発見したのは、南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学のリー・バーガー氏らの研究グループ。発表によると、これらの人骨化石は、ヒト属(ホモ属)の新旧の特徴を併せ持ち、現世人類の始祖に近いことから、新種の人類と推定され、「ホモ・ナレディ(Homo naledi)」と名づけられた。「ナレディ」は現地のソト語で「星」。「ホモ・ナレディ」は「星の人」の意味だ。

 発見から2年後の2015年9月、バーガー氏らの研究グループが学術誌『eLife』に論文を発表するや、古人類学界は騒然となった。というのも、古人類学者たちは、バーガー氏らの発掘の進め方を疑問視し、化石の年代解析法を批判していたからだ。

 バーガー氏らの研究グループによれば、ホモ・ナレディの身長は約150cm、体重は約35kg。原始的な特徴と現代的な特徴が奇妙に入り混じっているが、その顔や頭骨や歯には、ヒト属に分類できる特徴が多く見られる。肩、腰、胴は原始的な類人猿に近く、下肢は現世人類に近い。つまり、上半身は類人猿、下半身はホモ属なのだ。

 ホモ・ナレディの脳は、類人猿のように小さく、オレンジ大にすぎない。だが、体格は小柄な現世人類に匹敵する。木登りしやすいように曲がった指は類人猿に似ている。一方、足の形態は現世人類に近い。このハイブリッドな特徴からすると、ホモ・ナレディが200万~300万年前に存在したヒト属に近い種と推定されるという。

新種の人類か否か?議論が紛糾

 しかし、化石の形態学的な外観の特徴だけで年代を推定するのは合理的ではない。それが古人類学界の常識だ。発見された化石は、その形態が示す年代よりも新しい可能性も捨て切れないからだ。

 東アフリカでは、火山灰層によって年代を特定できることから、320万年前のアウストラロピテクスのルーシーをはじめ、多くの化石人骨の年代を正確に特定できた。

 一方、南アフリカでは、同じ場所で見つかる絶滅動物の化石の種類から年代を推定することが多い。ところが、ホモ・ナレディの化石が見つかった洞窟からは、フクロウの骨が1個と、げっ歯類の歯が数個見つかったに過ぎないため、精確な年代の特定は極めて困難だ。化石の年代が明らかにならなければ、化石人骨の科学的な価値はない。

 ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のウィリアム・ジャンガーズ氏(古生物学)は「この化石人骨が系統樹のどこに入るかは、年代によって異なる。年代が判明しなければ、化石人骨は人類史を書き換える発見ではなく、単なる骨董品だ」と批判する。

 カリフォルニア大学バークレー校のティム・ホワイト氏は「論文の記述から考えると、化石人骨は19世紀に発見された原始的なホモ・エレクトスの人骨だろう」と推定する。

 ロンドン自然史博物館のクリス・ストリンガー氏は「なぜ研究チームは年代測定を試みず、発表に踏み切ったのか疑問だ。放射性炭素年代測定法なら5万年前以前の年代を特定できないが、少なくとも5万年前より古いかどうかは確認できるはずだ」と問いかけている。

 バーガー氏と共同で化石分析を行ったウィスコンシン大学のジョン・ホークス氏は「化石人骨の年代を知りたい。だが、火山灰層がないため、アルゴン・アルゴン法などの放射年代測定法は使えない。化石人骨と関連づけられる動物の骨がないので、放射性炭素年代測定法で測定する他ない。だが、年代測定の過程で化石人骨を損傷するリスクがある」と釈明する。

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