信仰に反する医療行為を医師は拒否できるか?トランプ政権が医療従事者の治療拒否権を容認!?

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トランプ政権が打ち出した医療従事者の「治療拒否権」に8割が反対(depositphotos.com)

 1月中旬、米トランプ政権は、医師や看護師などの医療従事者の宗教的または倫理的な権利を守るため、医療従事者が患者の人工妊娠中絶などの医療行為を拒否できる権利を容認する計画案を発表した。

 その結果、保健福祉省(HHS)の公民権局に「良心と宗教の自由部門(Conscience and Religious Freedom Division)」が新設。この「治療拒否権」が実行されれば、医療従事者がトランスジェンダーの患者の治療を拒否できる道につながる公算が強い。

世論調査では8割以上が医療従事者が反対

 トランプ政権の計画に対する国民の反応や意識を知るために、医療・健康ニュースサイト「Health Day」は、調査会社のHarris Poll社に委託し、1月26~30日にわたり、米国在住の18歳以上の男女2055人を対象にオンライン調査を実施した。

 その結果、10人に8人以上の医療従事者が「良心または信仰に反する」という理由で、「治療を拒否する権利は認めるべきでない」と回答している。

 また、医療従事者が「患者の性的指向が信仰に反している」という理由で治療を拒否する権利に対しては69%、手術を拒否する権利に対しては59%が、「認めるべきではない」と回答している。

 その内訳を見ると、医療従事者が権利を侵害されたと感じた場合は、HHSの公民権局に「苦情を申し立てる権利」を支持する人は、共和党支持者で22%、民主党支持者で8%だった。

 さらに「『患者の性的指向が信仰に反している』という理由で治療を拒否する権利を支持する人」は、共和党支持者で23%、民主党支持者で9%、無党派層で10%。「宗教上の理由で手術を拒否する権利を支持する人」は、それぞれ40%、14%、24%。

 このほか、4人に1人が「医師がトランスジェンダーの患者に対する性別適合手術を拒否する権利は認められるべき」と回答。5人に1人が「医師が避妊薬の処方を拒否する権利は認められるべき」と回答。

 ただ、「トランスジェンダーの人や人工妊娠中絶の経験者、同性愛者に対する治療を拒否する権利が認められるべき」と回答した人は、共和党支持者で14%、民主党支持者で13%、無党派層で12%だった。

識者は「トランプ政権は偏見を助長する恐れがある」と懸念

 このような調査結果に対して、ヘルスケア関連の消費者団体であるFamilies USAの理事を務めるFrederick Isasi氏は「米国の一般市民は、医療従事者の個人的な偏見を反映した医療行為を認める危険性を十分理解していることが分かった」と語る。

 また、米ハーバード大学医学部生命倫理学センターのRobert Truog氏は「この計画案は現実的な問題の解消よりも、政治的な点数稼ぎに主眼を置いている。医療従事者の個人の信条に反するために治療ができない場合は、治療を引き受ける他の医師に紹介する慣行がある」と説明する。

 さらに前者のIsasi氏は「医師の信仰によって患者が望む治療できないのは稀だ。トランスジェンダー、生殖医療、性的指向は、極めてセンシティブで個人的な問題だが、偏見が治療を受ける大きな障壁になりうる。トランプ政権は、偏見を助長する恐れがある」と懸念を示している。

日本の医療界の現状は?

 日本の医師法(医師の応招義務)を見よう。医師法19条では、以下のように定められている。

 「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」

 だが、日本医師会の公式見解は、以下のようなものだ。少々長いがそのまま引用する。

 「2011年版アメリカ医師会倫理綱領(「9.06Free Choice:選択の自由」)を見ると『すべての個人は、医師を選択する権利を有する』、『自由選択の概念は個人が一般的に医師を選択することを保障するものであるが、同時に医師が個人を患者として受け入れることを断わることもできる』と明言し、『8.11Neglect of Patient (患者の遺棄)』でも『医師は患者を選ぶ権利を有する』と述べてる」。

 「(しかし)医師の身分法である医師法中にこのような規定(19条)があること自体異様であり、時代錯誤である。医師法19条は、医療の主体が個人開業医だった明治初期の医師像を前提に作られた法律であり、昭和後期の日本経済の大発展を背景に医業を行なう場所・施設である「診療所・病院」という概念、それら施設の経営主体である開設者概念が実態を伴って成立し、さらに全国各地に大規模病院が設立され、医師の過半数が病院勤務医になるに至った今日では、応招義務の要否は医療法・健康保険法中で規律すべき問題に変化している。同種の規定は、薬剤師法21条、獣医師法19条にも存する」

 「また本来、国・自治体の担うべき救急医療の問題を、医師身分、医師個人の問題として論ずるのは明らかに筋が違っている。医師間の公平、社会的妥当性を考えるならば、ドイツのように、ある場所で医療業務に就くすべての医師に対して、その場所を管轄する地域の救急医療システムを整備し、その業務に参加し、奉仕する義務を課すのが一つの有力な解決策である」(出典:日本医師会

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