連載「慢性腰痛を深く知る」第6回

痛みの原因がわかりにくいストレス性の腰痛は、通常とは治療法が違う!

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腰を屈めただけで激痛が走るのでは......と怯えていませんか?  shutterstock.com

 今回は「ストレス性腰痛(心因性腰痛)」について、その治療法や痛みの軽減法、医師の役割について考えてみたい。

 あなたの腰の痛みが、ストレスによる心因性のものであるかどうかを診断するには、あなたが日常的に感じているストレスを医師が知らなければならない。だが、見ず知らずの相手に、いきなり会社での人間関係や夫婦仲を語れる人はいない。しかも、身体的な不具合を訴えて受診したのに精神的な問題を聞かれたら、患者が不信感を抱くのも当然だ。

 医師としては、時間をかけて少しずつ患者の心を解きほぐし、信頼関係を作ってから、ストレス性腰痛の原因を聞き出したいところだが、いくら診察に時間を費やしても医療保険の点数とは無関係。じっくり丁寧に患者の話を聞く診療でも、あるいは、患者の顔も見ない3分診療でも、支払われる金額は同じ......。

 こう書くと「医者は儲け主義」と思う人がいるが、現実には、丁寧な診察は「儲からない」というレベルではなく、丁寧な診察をしていると病院が倒産してしまうレベルなのだ。この10年の間に、地方の医療を支える公立病院がどれだけ閉鎖されたかを知れば、病院経営の厳しさがわかるはずだ。

 それ以上に、医師不足のため、丁寧な対応をしていては患者さんを診察しきれないという問題もある。そのような状況のため、医師にとってストレス性腰痛の診断はハードルが高い病となっている。

ストレス性腰痛の患者は完全主義者が多い

 それでもなお、腰痛の真の原因を探ろうと、レントゲンなどの画像診断だけでなく、患者の心も診ようとする医師はいる。患者側も医師を信頼し、結論を急がずに、ゆっくりと話してみることが大切だ。ただし、ストレス性腰痛の治療は相性の問題が大きい。もし、何度か診察を受けてみて、どうしても医師と相性が悪いと思ったら、そのときは病院を変えたほうがいいだろう。

 時間をかけた丁寧な診断で、腰痛の原因がストレスであることがわかったら、具体的な治療を開始するにあたっての治療目標、つまり治療で目指すゴールを定める必要がある。これがストレス性腰痛の治療で最も大事なポイントだ。

 ストレス性腰痛の患者は完全主義者が多い。完全に痛みが消えた状態でなければ治ったとはいえないと、より完璧な治療を求めて手術を重ねたり、次々に担当医を変えるドクターショッピングに走ったりしがちだ。

 連載の第3回に書いたように、痛みは、動作の力加減を調整をするための重要な情報であり、痛みが全くないほうが異常なのだ。つまり、心身ともに健康なら、痛みを痛みとして意識しないでいられるだけだ。

 腰痛の程度にもよるが、痛みによって日常生活に支障をきたしているのであれば、日常生活が不自由なく送れるレベルをまず目指すなど、高すぎない目標を設定して、まず、そこを目指すところからスタートしたほうがいいだろう。

認知行動療法で考え方の偏りを修正する

 普通、腰痛の薬は、NSAIDs(エヌセイズ)、つまり非ステロイド性消炎鎮痛薬などを処方される。一方、ストレス性の腰痛の場合は、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬などが処方されることが多い。

 それらの薬を見て、「自分はうつ病ではない」と思う患者もいるかもしれない。しかし、薬というものは、ある病にだけ限定的に効果がある、というわけではない。

 たとえば、うつ病では、ホルモンの影響で意欲が低下したり、衝動性を抑えるホルモンが減少することでイライラしたりする。実はこれらのホルモンには、肉体の痛みを軽減させる働きがある。そのため、抗うつ薬を飲むと、腰の痛みが軽減されるのだ。医師は決して、うつ病を治すことで腰痛を治すことが目的で、抗うつ薬を処方しているわけではない。抗不安薬や抗てんかん薬も同様だ。

 ストレスによる腰痛治療では、認知行動療法が効果的だと言われている。認知行動療法は主に精神科で行われるため、整形外科と精神科が連携して治療にあたるリエゾン療法(連携療法)が行われる。ストレスが原因の腰痛とはいえ、骨や筋肉の問題がゼロというわけではない。骨や筋肉の治療をしつつ、その痛みを強めているストレスについての治療も並行して行うのである。

 認知行動療法は、患者の「現実の受け取り方・考え方」に基づく感情や行動に注目して、そこを変えることで疾患を治す療法だ。何かが起こったとき、人それぞれ浮かぶ考えやイメージがありる。たとえば、前に屈んだ瞬間に「あ、また痛くなる」と思い、痛みに備えて体を硬く身構えてしまうことで、逆に強く痛みを感じてしまう。
 このようなイメージは「自動思考」と呼ばれていて、それを自分自身で修正することは難しい。長らく腰痛を患った結果、ちょっとした動作のたびに「また痛くなる」とイメージしてしまう人は、「考えまい」と思っても、そう考えずにはいられないのだ。さらに、とっさに身構える行動を止めることもできない。

 認知行動療法では、自動思考と現実との食い違いに着目しすることで、少しずつ疾患を修正していく。たとえば、「また痛くなる」と考えて身構えることが、痛みを過剰に感じる結果を招いているので、体の動かし方を変えるなどして、これまでのように痛みを予期して身構えないようにする。行動を変えることで、次第に「また痛くなる」と考えずにいられるようになり、小さな痛みは無視できるようになっていくのだ。

 腰痛に対する認知行動療法は保険適応外のため実施している医療機関は少ないが、大学病院などで行っているところがある。

 次回は「腰痛診療ガイドライン 2012」で明かされた、腰痛に関する新常識を紹介する。


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森田慶子

森田慶子(もりた・けいこ)
経験20年の医療ライター。専門医に取材し、その分野を専門外とする一般医向けに発信する医師向けの医学情報を中心に執筆。患者向けの疾病解説の冊子や、一般人向けの健康記事も数多く手がける。これまでに数百人を超える医師、看護師などの医療従事者から、最新の医学情報、医療現場の生の声を聞いてきた。特に、腰痛をはじめとする関節のトラブル、糖尿病、高血圧などの生活習慣病、うつ病や認知症などの精神疾患、睡眠障害に関する記事を多く手がけてきた。
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