「歳を取ると物覚えが悪くなる」は20世紀初頭に生まれた迷信だった!

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年をとっても記憶力は変わらない

「歳を取れば記憶力が落ちるのは仕方ないことだ」と思っていないだろうか? だとすれば、あなたも「カハールの呪い」にかかってしまっている。

 年齢とともに脳は次第に衰えていき、記憶力は下がっていくものだ――。そのように人々が思うようになった原因は、20世紀初頭の、ある人物に起因する。それはスペインの神経解剖学者サンティアゴ・ラモニ・カハールだ。

 彼は偉大な学者であり、神経組織の解剖学的研究に寄与したとして、1906年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。染色した中枢神経系組織を丹念に観察することにより、神経系は神経細胞(ニューロン)という独立した組織で構成されていて、神経細胞の接合部(シナプス)にはギャップがあることを発見した。それまで唱えられていた「神経細胞は網の目のように結合している」という網状説をくつがえす発見であり、カハールによって、現代の神経科学・神経解剖学の基礎は築かれた。

 記憶はニューロンとシナプスが支えている。シナプスを介して連結されたニューロンの回路に電気が通ることで、ヒトは考え、行動する。何度も電気が通ったシナプスは増強され、電気が通りやすくなり、記憶は強化される――。

 この脳の構造の基本を解明したカハールは、1913年に「20歳を過ぎたら、脳細胞は日々死にゆくばかりで、脳細胞は再生しない」という仮説を唱えた。以来、「成人の脳は衰え行く一方」と人々は思い込んだ。

 この定説が間違っていることがわかったのは、20世紀末の1998年のこと。スウェーデンの科学者ピータース・エリクソンらが、脳の中で記憶をつかさどる部位である「海馬」では、大人になってからも新しい脳細胞が誕生し続けていることを発見したのだ。

落ちるのは「記憶する力」ではなく「思い出す速度」

「記憶力は落ちないと言われても、実際、『あれ? なんだっけ?』と考え込むことは増えているよ」という人は少なくないだろう。

 ここで気をつけたいのは、想起力、つまり思い出す力と記憶力は別物だということ。年齢とともに落ちるのは、記憶力ではなく、思い出す力だ。

 それは当たり前のこと。脳の引き出しに記憶が10個しか入ってない幼児と、10万個の記憶が入っている老人と、どちらがその時に必要な記憶をすばやく探し出せるか? 記憶している数が少ない幼児がすぐに思い出せるに決まっている。たくさんの記憶を持つ老人は、多くの記憶の中に埋もれた1つの記憶を探し出さなければならないから、思い出すのに時間がかかるのは当然だ。

「歳を取って、記憶力が落ちた」と感じる理由はほかにもある。

 そもそも、すべての事柄を覚えられなくなっているだろうか? 好きな趣味のことなら覚えられるのではないだろうか?

 人は見たり聞いたりしたことをまずは短期記憶して、次いでその中から重要なものだけを長期記憶に回す。脳は、興味や好奇心といった強い感情を伴う記憶を重要だと考える。幼児は見るもの、聞くもの、すべてが新鮮で驚きの日々だが、年齢を重ねれば、知っていることが増え、感激したり、驚いたりすることは減っていく。

 加えて、長年の間に自分の好きなもの、嫌いなもの、自分に合うもの、合わないものがわかっているので、次第に慣れた世界に閉じこもり、苦手なものを避ける。そのため、ますます日々の体験に新鮮味はなくなっていき、「長期記憶する価値がない」と脳に判断される。「記憶できない」というよりも、脳が取捨選択して「価値がないから記憶しない」だけなのだ。

 記憶したければ、ワクワクしながら見たり聞いたりすればいい。「好きでもないけど、必要だから覚えなければならない」場合には、散歩しながら記憶するのがおすすめだ。歩く中で次々変わる風景が脳に新鮮な刺激を与えることによって、記憶しやすくなる。
(文=編集部)

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